東亞合成研究年報 TREND 第11号 TOAGOSEI
2008年1月1日発行

論文

体積ホログラムにおける収縮の影響
 光により記録可能なフォトポリマー材料を利用した体積ホログラム記録において、光重合時の体積収縮による屈折率格子の変形は記録品質の低下につながる重要な問題である。ホログラム記録材料では記録密度向上のために多重記録を行う必要があるが、その際の収縮に起因したクロストークやノイズグレーティング等を議論できるようなモデルはこれまでに提案されていない。
 本論文では、線形弾性体シミュレーション(Elastica)を利用して、二光束干渉ホログラムの記録領域内での光重合により生じる局所的な体積収縮をシミュレートした。その際の記録領域内の微小領域の位置変移から、収縮後の回折光を推定し、収縮が屈折率格子に及ぼす影響を検討した。また、実際の収縮が比較的大きな記録媒体を用いて、実事象と比較検討も行った。
からみ合いひも状ミセルの非線形レオロジーと収縮
 界面活性剤水溶液に適正な塩を加えることにより、ひも状になったミセルが形成される。ひも状ミセルの粘弾性特性は、界面活性剤濃度(CD)と塩濃度(CS)との比に応じて三つのタイプに分類されている。その中で中間的な塩濃度であるタイプU(CS<CD)の非線形粘弾性については、未解明の部分が多く残されている。
 本報告では、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)とサリチル酸ナトリウム(NaSal)からなるひも状ミセル水溶液を用いて、塩濃度比(CS/CD)を3.25×10(-1 L 試料)および4.0×10(-1 H 試料)とした二種類の濃度比に調製し、タイプUに関する非線形レオロジーの解明を目的として実験を行った。
 線形領域および非線形領域の粘弾性を調べた結果、H 試料はサリチル酸の濃度がCTAB 濃度の半分以下でありながら、単一緩和や流動硬化が観測されるなど、タイプVと類似の挙動を示すことがわかった。L 試料は、からみ合い高分子鎖と同様にミセルの収縮によって非線形緩和していると考えられるが、定常粘度η (γ・)ではCox-Merz 則からのずれが観測され、からみ合い高分子と完全には一致しないことがわかった。その不一致は、流動誘起構造の影響だと考えられた。
誘電緩和測定と粘弾性測定による高分子ブレンド中高分子鎖運動の観察
 一般に異種高分子のブレンド系は非相溶であるが、相溶性を示すブレンド系も多く見出されている。しかし、こうしたブレンド系中では高分子同士が静的に相溶していても、自己濃縮などの効果により成分高分子鎖の濃度は完全に均一とはならない(動的不均一性)。そのため、各高分子鎖の摩擦状態に違いが生じ、比較的スケールの小さなセグメントオーダーの運動では緩和モード分布が広がることが知られている。しかし、高分子鎖全体程度のスケールの運動(グローバル ダイナミクス)に対する動的不均一性の影響については十分に検討されていない。
 そこで本研究ではA 型双極子を持ち、両末端間ベクトルの運動が誘電活性であるポリイソプレンと、誘電不活性であるポリ(p-t-ブチルスチレン)のブレンド試料に対して、誘電緩和測定と粘弾性測定を行い、各成分高分子鎖のグローバル-ダイナミクスに対する動的不均一性の影響を検討した。その結果、グローバル-ダイナミクスの運動性の違いによって、動的不均一性から受ける影響は異なることが見出された。
Development of Light-Diffusive UV-Curable Resins for a Novel Thin Backlight System
 LCDバックライトは、反射板、導光板、拡散板、プリズムシート等多くの部材を必要とするために、LCD 全体に占める厚さ、重さ、コストの割合が大きい。また、バックライト構成部材界面での反射や部材による光の吸収などにより光の 取り出し効率が低下するという問題がある。
 筆者らは、次世代モバイル用表示材料技術研究組合(Technology Research Association for Advanced Display Materials, 通称TRADIM)にて株式会社クラレと共同で、1) 薄型化および軽量化、2) 光取り出し効率の向上、3)アセンブリの簡略化を達成するために、複数の光学フィルムの機能を一枚のフィルムに集約したバックライトの開発に取り組んだ。光学フィルムは、高輝度で白色の散乱光を出射する必要があるが、波長依存性があるため、白色光は得られにくい。筆者らは、Mie 散乱理論に着目し、マトリックスであるUV 硬化樹脂と光拡散材との屈折率差、光拡散材の粒径を最適化することにより、散乱光を白色光に近づけることができた。さらに、UV 硬化樹脂に求められる、速硬化性、低粘度、支持フィルム密着性、金型離型性といったプロセス特性を満足する設計手法を確立し、UVX-5113を開発した。
 UVX-5113の連続塗工試験により光学フィルムを作製し、バックライトを試作した。得られたバックライトの厚さは従来品の1/3以下の0.26mmであり、光学特性も良好であった。
オキセタニル基を有するカゴ型シルセスキオキサン(OX-Q8) の合成と物性
 光重合性基であるオキセタニル基(OX 基)を有し、カゴ型構造より構成されるシルセスキオキサンQ8 体(OX-Q8)の合成およびQ8 体の光硬化型材料への応用について検討した。さらに、ランダム型MQ 樹脂(OX-MQ)との物性比較を行った。
 ジメチルシリル基で末端封止したカゴ型構造[HMe2SiOSiO3/2]8と3−エチル−3−アリルオキシメチルオキセタンを白金触媒下でハイドロシリレーションさせることによりOX-Q8を合成した。29Si NMR分析より、得られた生成物は規則正しいカゴ型構造をとっていることが支持された。さらに、MALDI-MS 分析において観測されたメインピークがOX-Q8の分子量とよく一致したことより、得られた生成物が[Si8O12]からなるQ8体であることが明らかとなった。
 また、OX-Q8と同様の組成を有するランダム型OX-MQ 樹脂を合成して光硬化させ、カゴ型OX-Q8 光硬化物と物性を比較したところ、硬度や耐熱性などの巨視的評価においては、両者間でほとんど差が見られなかった。


新技術紹介

VH-SQ:超耐熱性シルセスキオキサン誘導体
 シルセスキオキサン(以後SQと記す)は、RSiO3/2で表される骨格構造(T単位)を有する化合物であり、Rに種々の官能基を比較的容易に導入できることから、有機特性と無機特性を相加・相乗的に発現して革新的機能を発揮し得る有機−無機ハイブリッド材料として、近年注目を集めている1-7)
SQ に期待される機能の1つとして耐熱性が挙げられ、例えばヒドロシリル基を有するオクタヒドロオクタシルセスキオキサン(H-T8)と不飽和基を有する有機化合物をヒドロシリル化することで得られた有機−無機ハイブリッドポリマーが、極めて高い耐熱性を有することが報告されている(図1)8)。しかし、カゴ型構造を有するH-T8は非常に高価であるため、このような材料の実用化を進めることは困難である9)
医療用UV 粘着剤の開発
 UV硬化型粘着剤は、UV照射すると瞬時に硬化して粘着加工できるという特徴がある。特に無溶剤型では、長大な乾燥炉を必要としないために省スペース、省エネルギーでかつ粘着製品を高速・大量生産できるという利点から次世代型粘着剤として期待されている。これまでにいくつかのUV硬化型粘着剤が提案されているが、従来提案されているものは、塗工性、硬化性、粘着性能、安全性などの点で未だ解決が必要な問題があり1〜3)8〜10)、広く実用化される域には至っていない。


新製品紹介

新規製紙用歩留向上剤
 中国等の紙生産量の増加により、世界的に原料パルプ価格が高騰している。また環境保護意識の高まりもあって、DIP(古紙再生‐ 脱墨パルプ)の利用率も上昇傾向にある1)2)。高価な原料パルプの歩留率を高めることはもとより、歩留性の悪いDIPや高い添加率の各種充填剤等を効率よく歩留らせることはコストダウンのために必須の事項である。製紙用歩留向上剤への期待は益々高まって来ているといえよう。
 製紙用歩留向上剤は、無機成分を主体とするものから種々の高分子化合物まで数多くの種類がある。そのうち高性能型として近年多く使用されているものは、ポリアクリルアミド系(以下PAMと表記する;アクリルアミドとイオン性モノマーの共重合体)等の水溶性高分子と、アニオン系微粒子等を併用するものであり、二剤以上で供給する工程負荷の大きい形態のものである。
機能性球状シリカ〜「HPSシリーズ」〜
 現在、封止材を始めとする多くの電気・電子材料には、充填剤としてシリカが使用されている。シリカには不定形な形状のものと球状のものとがあり、球状シリカの主な用途にはアンダーフィル材やアンチブロッキング材等がある。球状シリカの中には、粉砕したシリカ粉末を火炎中で溶融・球状化した「溶融シリカ」があり、この「溶融シリカ」には溶融の際に複数の粒子が融着した粗大粒子や、粉砕時に生じたサブミクロン粒子の溶融物も含まれる。そのため、樹脂中に添加した時、配合装置のフィルターを目詰まりさせたり、狭ギャップの配線間に粗大粒子が存在して、配線をショートさせたりする可能性がある。


分析技術

核磁気共鳴(NMR)分光法
 1946年に核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)現象が見いだされてから60 年余り、NMR分光法は、今では分子分光学の中心的な存在のひとつとなっており、有機化合物の化学構造解析には必須の分析手法となっている。また化学以外でも様々な分野で応用されており、例えばMRI 診断法として医療の現場で使用されていることは、一般に認知されている応用例として挙げられる。
NMR法は他の主要な分光法、例えば、赤外分光法や紫外可視分光法と比較して測定感度が低いことが難点であった。しかしながら単一パルス利用するFT(フーリエ変換)−NMR法の出現により、測定データの積算が可能となり、また超伝導磁石の導入により、それまでの電磁石より高い磁場が使えるようになった。これらを含む種々の技術的な発展により、現在では、天然存在比が低くても核磁気モーメントを有する核であれば、NMR 測定が可能となった。
弊社では、2007年にNMR 装置を増強し、固体NMR測定や磁場勾配を利用した測定を実施する環境を整えた。本稿では、NMR測定法およびNMR装置について簡単に説明し、幾つかの測定事例を紹介する。

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