東亞合成研究年報 TREND 第6号 TOAGOSEI
2003年1月1日発行

論文

高温重合により合成されるマクロモノマーを用いた乳化重合反応
 200℃以上の高温での連続塊状ラジカル重合によって、末端にビニリデン型不飽和結合を有するマクロモノマーが合成できる。この方法によれば、カルボキシル基を有するマクロモノマーも、短時間の一段反応で製造可能となる為、工業的に有用な反応性高分子界面活性剤としての応用が期待される。本研究では、高温連続塊状重合により合成したアクリル酸ブチル(BA)−アクリル酸(AA)共重合マクロモノマーを用いた乳化重合反応について検討を行った。上記マクロモノマーのアンモニア中和物を乳化剤とするスチレンの乳化重合反応は、極めて安定に重合が進行し、マクロモノマーの反応率は50%以上に達することが確認された。また得られたエマルションは、マクロモノマーのグラフト効果により、溶剤混和時の安定性が極めて良好であった。また本マクロモノマーは、溶液重合では共重合性に乏しいことが確認されているメタクリル酸メチル(MMA)の乳化重合においても有効であり、重合は安定に進行した。マクロモノマーの反応率もスチレン(St)の場合と同様、50%以上に達した。乳化重合系ではゲル効果およびモノマー高濃度効果により、3級炭素ラジカルへのモノマーおよび成長ラジカルの付加が、β開裂よりも優先されるためと考えられる。
フェニル- 2- メチルグリシジルエーテル(PMGE )の光カチオン重合特性
 光カチオン硬化型材料は良好な密着性や薄膜硬化性等の多様な特性を有しているが、硬化速度が遅い欠点があることが一般に知られている。我々は、エポキシ化合物をプロモーターとしたオキセタン化合物が優れた硬化性を有することを明らかにしてきたが、高速硬化には高価なオキセタン化合物を多量に配合する必要があった。安価なグリシジルエーテル類のプロモーターとなりうる材料が見出せれば、光カチオン硬化型材料の適応範囲は更に拡大できると考えられる。
 本報告では、オキシラン環のα-ジアルキル置換体であるフェニル-2-メチルグリシジルエーテル(PMGE)の単独およびフェニルグリシジルエーテル(PGE)との共重合の反応性(重合熱量測定、および、重合時の粘弾性測定)を検討し、PGMEがPGEのプロモーターとして有用であることを見出した。分子軌道法計算によるカチオン開環重合における重合挙動の理論的な検討から、この良好な重合性は、PMGEの高い塩基性および開環のエネルギー障壁の低下に起因した開始反応の迅速化によって生じている可能性を明らかにした。
高温重合によるポリプロピレン- アクリル系グラフトポリマーの合成
 末端にイソプロペニルを持つ市販の熱分解法低分子量ポリプロピレン(PP)をマクロモノマーとして用い、アクリルモノマーとの共重合によるグラフトポリマー(GP)の合成を検討した。
 まず、PP末端イソプロペニル基とアクリルモノマーの共重合性及びその温度依存性に関する知見を得るため、イソプロペニル基のモデル化合物である2-メチル-1-ペンテン(MP)とアクリル酸メチルの共重合試験を行った。その結果、MPの共重合性は150〜200℃の温度域で最も高いことが分かった。
 PPマクロモノマーとアクリル酸2-エチルヘキシル(HA)を175〜200℃で塊状重合し、その沈殿精製物を高温NMRと高温GPCで分析して共重合組成、残存イソプロペニル基濃度および分子量を決定した。末端イソプロペニル基の反応率は57〜90%であり、精製物の組成から計算したグラフト率(=100×PPに結合したPHA重量/仕込んだPP重量)は50〜130%と高い値を示した。これらの結果をもとに粗生成物中の真のGPの量を推定すると40〜60%と計算された。また、末端イソプロペニル基とHAの反応率の関係から共重合反応性比を概算すると、MPと比べイソプロペニル基の重合性が低い結果だった。高分子であることによるイソプロペニル基の分子運動性の低さ等が原因と考えられる。


新技術情報

パラジウム触媒を用いたハロゲン化アリールとトリエトキシシランのクロスカップリング反応
 最初の有機ケイ素化合物であるテトラエチルシラン(SiEt4)は、1863年、C.Fridel、J.M.Craftsらによって初めて合成された1)。それ以来、多くの有機ケイ素化合物が合成されてきた2-3)。
 耐熱性ケイ素系材料の原料となるフェニルトリエトキシシラン(フェニルートリエス)に代表されるフェニルシラン類は、工業的に有益な化合物が多く、電子材料等の原料として、積極的に利用されている4)。
 フェニルシラン類のケイ素-フェニル結合は、一般的にグリニャール法5)または直接法(Rochow法)6)により形成される。
 しかし、工業的な面を考えると、これらの反応では、以下の点が問題になる場合が多い。グリニャール反応:製造コストが極めて高いため、実用化が困難。官能基の種類も限られる。直接法(Rochow法):実用化はなされているが、複数の副生成物を除去するために大規模な精留装置が必要である。
 以上の現状を踏まえ、我々は、有機金属触媒存在下、温和な条件にて進行するハロゲン化アリールとヒドロシラン(Si-H)のクロスカップリング反応に着目した。本クロスカップリング反応については、これまで反応温度500〜700℃を必要とする気相反応7-8)、高価なヨードベンゼン9)あるいは置換ブロモベンゼン10-11)を用いた反応例があるのみである。
 我々は、工業的な面を考慮に入れ、安価なクロロベンゼンとトリエトキシシランのクロスカップリング反応(フェニルートリエスの生成)の検討を試みることにした。金属触媒としては、種々のクロスカップリング反応にて良好な結果を与えるPd(パラジウム)12)に着目し、種々の配位子を用いて、実験を行った。
高機能凝集剤
 凝集剤は懸濁物中の固形分と水を効率的に分離除去する為に用いられ、廃水処理、製紙工程薬剤等に使用されている。
 最近の廃水は、汚泥中の繊維分低下、活性汚泥処理で発生する余剰汚泥比率の上昇等による難脱水化傾向にあり、又汚泥減容の為の低含水率化も求められ、これらに対応できる汚泥脱水方法が望まれている。
 一方、製紙工程での填料やパルプの歩留率を向上させる為にも歩留向上剤として凝集剤が使用されているが、その効率化が望まれている。
 本稿では、上記問題に対応する為の新規な方法について紹介する。


新製品紹介

広がるUFO ポリマーの応用展開
 UFOという言葉は本プロジェクトを推進するグループの名称でUniform Functional Oligomerの頭文字を採ったものである。その想いはラジカル重合をベースにした高温塊状連続重合を利用し高効率で環境に優しいプロセスから資源や環境問題の解決に有用な低分子量で高機能(分子量分布や共重合組成分布が狭く、性能に悪影響を与える不純物が少ない)のポリマーをできるだけ安価に提供するこである。
 2001年に弊社名古屋工場内に商用プラントを完成させ、「ARUFON」の名で本格的な生産と開発活動を開始している。そして対象とするお客様は国内は勿論のこと、韓国・台湾など東南アジア諸国にまで及んでいる。
 本技術や製品については、すでに東亞合成研究年報(TREND)の既報1)〜5)や本号及び学会等の場で発表している。ここでは多岐に渡るUFOポリマーの応用のうち顧客から高い評価を受け、採用に至っている例を中心に最近の開発トピックスも含めて紹介する。
低臭性速硬化型メタクリレート系塗り床材「タフクイック」
 塗り床材はコンクリートやモルタル等の床面に、現場施工により塗り仕上げる塗材である。塗り床材の役割は、床に機械的強度(耐衝撃性、耐摩擦性、耐荷重性)、化学特性(耐水性、耐薬品性、耐熱性、対候性)および居住性(歩行感、美観性、防音性)を付与することである。主に用いられている塗り床材の分類1)を図1に示す。
 特に近年では、工期短縮の要請による速硬化性、環境保護機運の高まりに伴う低臭気性、ライフサイクルコストを低減するための耐久性向上の三つの特性が重要視されるようになっている。エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系は安価であり汎用だが硬化時間が長く、エポキシ樹脂は硬いために割れが生じやすく、ウレタン樹脂は機械的強度に劣るため、いずれも耐久性に劣る。メタクリレート樹脂系は耐久性、速硬化性に優れるが、メタクリル酸メチル(以下MMA)モノマーに起因する臭気に問題がある。すなわち従来の塗り床材には、近年の要請を満たす材料が無かった。今回、当社は以上の状況を鑑み、低臭性速硬化型メタクリレート系塗り床材「タフクイック」を開発したので、以下に紹介する。
UV 硬化型粘着剤「アロンタックUVA シリーズ」
 近年の環境保全問題に対する関心の高まりは周知の通りであり、粘着剤においても脱溶剤化の流れが顕著に見られる。無溶剤型粘着剤としてはエマルション型粘着剤およびホットメルト型粘着剤が既に実用化されており、紙ラベルや一部のテープ用途を中心に広く用いられている。
 しかしながら、エマルション型粘着剤は界面活性剤を使用することに起因する粘着性能の低下が課題となっており、とりわけ耐水性に関してはエマルション型粘着剤の最大の欠点として指摘されている。当社は溶剤系粘着剤と同等の耐水白化性を有するエマルション型粘着剤を開発しており1)、各粘着剤メーカーもエマルション型粘着剤の性能向上に関して精力的に検討を進めているが、全ての溶剤型粘着剤を代替するほどの技術はまだ確立されていない。
 一方、ホットメルト型粘着剤において塗工時の粘度の制約からポリマーの分子量に限界があり、塗工性と粘着性能とを両立させることが難しい。特に耐熱性が低い点に関してはホットメルト型特有の大きな課題となっている。
 これらの理由から、高い耐水・耐湿性や耐熱性等が必要とされる用途においては現在も主に溶剤型粘着剤が使用されている。結果として、溶剤型粘着剤は減少傾向にあるものの依然として多くの割合を占めており、市場からは代替技術を望む声が大きくなっている。これら高性能用途での無溶剤型粘着剤としてはUV硬化型粘着剤の検討が盛んであるが、これまでに提案されているものには未だ解決が必要な課題が多く残っており、広く実用化される域には至っていない。
 我々は、従来のUV硬化型粘着剤が抱えていた課題を解決すべく検討し、当社独自の技術をベースとした新しいUV硬化型粘着剤を開発した。本稿では今回開発したアロンタックUVAシリーズについて紹介する。
有機/無機ナノハイブリッド型防湿コーティング剤
 地球資源の有効利用の観点から、各種材料の耐久性を向上させる技術の開発が急務である。材料を劣化させる環境因子として、光、水、熱以外にも、湿度の影響が大きいことは周知の事実である。例えば木質材料は、吸湿により変形や強度低下を起こし、コンクリート等の水硬性無機材料は、吸湿した水分が材中で結露凍結すると体積膨張によりひび割れやクラック等を起こす。また、最近はリサイクル材料の利用が積極的に試みられているが、バージン材料よりも一般に湿気に対する耐性は低下する。
 こういった課題に対し、現行の防湿材料としてポリエチレンや塩化ビリニデン樹脂、パラフィンワックス等が市販されている。しかしこれらはフィルム形態でしか提供されていない為、簡便性と美粧性に劣っていたり、塩素を含んでいて環境面で問題を生じたり、耐熱性が低く経時で防湿性が低下するものであった。
 当社は、粘土鉱物というシート状の無機材と有機ポリマーをナノオーダーで複合化したナノハイブリッド化技術に注目し、優れた防湿機能を有する新規コーティング剤を上市した。


分析技術

キャピラリーSFCによるポリスルフィド化合物の分離分析
 超臨界流体クロマトグラフィー(Supercritical FluidChromatography,SFC)は移動相として超臨界流体を用いることを特徴とするクロマトグラフィーである。SFCは1962年にKlesper1)らによって初めて報告された後、1980年中頃には基礎技術が確立され、ガスクロマトグラフィー(GC)と高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の両方の特徴を併せ持つ手法として注目を集めている。SFCには移動相に用いる超臨界流体の性質からGCやHPLCにはない特徴があり、その特徴を生かして油脂成分の分離分析2)、合成高分子のような重合同族体の分離分析3)などに活用されてきた。
 SFCは分離に用いるカラムの種類によってキャピラリーSFC(CSFC)と充填カラムSFC(P-SFC)に大別され、それぞれ得意とする分野が異なっている。分析研究室では、1998年にC-SFC装置を自製して種々の試料への応用を試みてきた。本報では、CSFC法の特徴・測定原理と最近の分析実施例について紹介する。


分析技術

研究開発テーマの高純度化・高機能化の流れ
 鶴見曹達の研究開発の基軸は無機に特化し、国内市場に視野を置いたニッチな製品の開発に注力してきました。ごく最近では経営トップの方針により国外市場をも念頭に置いたグローバルニッチを目指しています。また、当社研究開発の特徴は小規模体質を活かし市場ニーズに即応する機動性、すなわち営業・研究部門の緊密な連携を心掛けて取り組んでいることです。

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